個人事業主と消費者契約法の適用

標準

◆消費者契約法の適用範囲

ウェブデザイナー(個人事業主)がOA機器やソフトを購入する場合、あるいは飲食店の経営者(個人事業主)が食材を購入する場合などにおいて、売主(事業者)から不当な勧誘行為があったり、契約に不当な条項があったりしたとき、これらの個人事業主は、消費者契約法に基づく意思表示の取消し(同法4条)や不当条項の無効(同法8条~10条)を主張できるのでしょうか。

消費者契約法の適用対象は、「消費者」と「事業者」との間に締結された契約(消費者契約)に限られるところ、個人としての側面と事業者としての側面を持つ個人事業主が「消費者」に当たるのかという問題です。

◆個人事業主も「消費者」となりうる

消費者契約法において、個人は原則として「消費者」に当たるとされていますが、個人であっても「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合」は除外されます(消費者契約法2条1項)。

他方で、「事業者」には、法人その他の団体のほか、「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合」における個人が含まれます(消費者契約法2条2項)。

つまり、個人(個人事業主)は、どのような目的で契約するかによって、「消費者」になったり「事業者」になったりするということです。

◆「消費者」と「事業者」の判断基準

個人がどのような目的で契約するのかについては、内心の問題であるため、客観的な事情から判断していくことになります。

通常であれば、事業目的で購入する場合と個人用・家庭用に利用する目的で購入する場合とでは、購入量や購入先などが全く異なるため、「事業者」としての契約と「消費者」としての契約のいずれであるかの判断は難しくありません。例えば、飲食店の経営者が、業務用の食材を専門に取り扱う仕入先から大量に食材を購入したような場合には、事業目的で購入したものといえます。

また、大型の業務用機器のように、商品や役務の性質上、事業目的での購入しかありえないものであれば、さらにその判断は容易となります。

これに対し、携帯電話、スマートフォンやタブレットのように、個人用・家庭用としてだけでなく事業用にも利用されうる商品の場合、いずれの目的であるかを判断することはかなり難しくなります。

このような場合には、結局、契約の締結、取引に関する情報・交渉力の格差を念頭に置きつつ「消費者」と「事業者」の範囲を決めるほかないものと考えられます。

◆売主(事業者)の対策

以上のように、消費者契約であるかどうかという問題について、個人(個人事業主)がどのような目的で契約するかによって判断され、しかも事案によってはその判断が容易ではないということは、売主(事業者)にとっては、契約時には必ずしも明確に判断できない事情によって、将来的に意思表示の取消しを主張されたり、契約条項の無効を主張されたりするリスクを抱えるということを意味します。

そこで、売主(事業者)としては、このようなリスクを回避するため、事業の内容や規模の記入欄、「事業目的で購入する」という文言などを契約書に盛り込んでおくという対策を取ることが考えられます。

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