退職した従業員が、前職で開発・販売していたソフトウェアと類似するものを開発・販売する。
ベンダが、ユーザから委託を受けて開発したプログラムを応用し、新しいプログラムや汎用的なパッケージ製品を開発する。
ユーザが、ベンダから納入されたプログラムを元にして、独自に新しいシステムを開発する。
これらの場合、類似するプログラムを開発することが著作権(複製権・翻案権)を侵害するか否かといったトラブルが生じることがあります。
◆ポイントは「表現の本質的な特徴の同一性」
「複製」と「翻案」は、新たに思想・感情を創作的に表現するものであるか否かという点で区別されます。
ただ、著作権侵害か否かを考える上では、複製権侵害でも翻案権侵害でも侵害には変わりはありません。
「複製」と「翻案」はいずれも、原著作物に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、これに接する者が原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる著作物を作成するものです。
したがって、著作権侵害か否かという場面では、原著作物との関係で、「表現上の本質的な特徴の同一性」が維持されているか否かがポイントとなります。
実務上はこれを前提に、何をもって「表現上の本質的な特徴」というのか、「表現」と「アイディア」をどのように区別するのかが重要な問題であり、法務担当者や弁護士が頭を悩ませるところです。
◆著作権侵害の成否の判断手順
著作権侵害の成否(表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているか否か)を判断するための手順については、できる限り分析的であることが求められます。
具体的には、原著作物と新たな著作物とを対比し、その共通する部分を抽出し、その共通部分が創作的な表現にあたるか否か、さらにはそれが表現上の本質的な特徴を持つか否かを検討する手法(濾過テスト)が一般的です。
◆プログラムの著作権侵害の成否を見極めるポイント
プログラムの著作物については、英数字や記号で記述されたソースコードを比較することになります(動作や機能は「表現」ではなく、「アイディア」にすぎないので、比較の対象とはなりません)。
その上で、特に次の点を検討することになります。
⑴ 共通する部分の分量・割合
共通する部分の分量(行数・文字数)やその全体に占める割合が多い場合には、著作権侵害が認められやすくなります。分量・割合が多いほど、プログラマによる表現の選択の幅が広くなり、そこに創作的表現が含まれる可能性が高まるからです。
⑵ 共通する部分の創作性
小説などとは異なり、プログラム言語による命令・表現には一定の制約があるため、どうしても似たような表現になってしまうことがあります。
実現したい動作や機能との関係で、表現方法が1通りしかないものか、それともプログラマによる創意工夫の余地のあるものかを検討する必要があります。
◆まとめ
著作権(複製権・翻案権)を侵害するか否かの判断は非常に難しく、同じ事件について、裁判所の判断が分かれることもざらにあります。
著作権に関するトラブルの可能性を完全に除去することはできません。
しかし、紛争予防の観点からは、既存のプログラムを応用して新たなシステムを開発する場合、共通する部分の抽出と創作的な表現の有無の検討を厳密に行うことにより、トラブルの可能性をできる限り少なくすることが重要です。
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