LINEへの立入検査に関する資金決済法上の問題

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LINEに対する関東財務局の立入検査が波紋を呼んでいますね。

パズルゲーム「LINE POP」で提供されているアイテム「宝箱の鍵」の取扱いが資金決済法との関係で問題となっているようです。

そこで、報道LINEの公表した見解などからうかがえる限られた事実関係をもとに、解説をしてみます。

◆LINEが違反した疑いのある義務とは

本件では、①「宝箱の鍵」が資金決済法上の「前払式支払手段」にあたるかどうか②「前払式支払手段」の発行会社が守るべき「資産保全義務」にLINEが違反しているのではないかということが問題となっています。

「前払式支払手段」とはあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、実はとても身近なものです。

例えば、Suica、nanaco、楽天Edy、Amazonギフト券といったプリペイドカードや商品券などが「前払式支払手段」にあたります。

「前払式支払手段」は、その名のとおり、利用者が発行会社にお金を前払いしておくものであるため、発行会社が破綻してしまうと、利用者は前払いしたお金を失いかねません。

そこで、前払式支払手段の発行会社は、基準日(3月31日と9月30日)の前払式支払手段の未使用残高が1000万円を超えるとき、その未使用残高の2分の1以上の金額を保全しておかなければならないこととされています。これが「資産保全義務」です。

これにより、万が一発行会社が破たんした場合であっても、利用者は、あらかじめ保全された資産の中から優先的にお金を回収することができ、破綻による社会的・経済的なダメージを抑えることができるわけです。

本件で、LINEは、ユーザの取得した「宝箱の鍵」を「前払式支払手段」として取り扱わず、必要な「資産保全」を行わなかった疑いが持たれているわけです。

◆「前払式支払手段」とは何か

それでは、パズルゲーム「LINE POP」のユーザが取得する「宝箱の鍵」は、「前払式支払手段」にあたるのでしょうか?

これを考えるにあたっては、まず「前払式支払手段」の意味を明らかにする必要があります。

「前払式支払手段」の定義については、資金決済法3条1項に定められているのですが、弁護士ですら理解が難しいほど長ったらしいので省略します(笑)。なぜこんな難解な定義にしたし…。

簡単にいうと、「前払式支払手段」とは、次の3つの要件を満たすものを指します。

① 金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値保存)
② 金額・数量に応じた対価を得て発行されるものであること(対価発行)
③ 代価の弁済等に使用されること(権利行使)

◆「宝箱の鍵」は「前払式支払手段」にあたるのか

3つの要件を踏まえ、「宝箱の鍵」がどのようなものかを具体的にみていきましょう。

「宝箱の鍵」は、アイテムショップで「ルビー」と交換することなどにより取得できるようです。

ユーザは、お金を出してこの「ルビー」というデータを買います(②対価発行)。これがLINEに記録され(①価値保存)、ハート(ゲームで遊ぶのに必要なエネルギー)と交換したり、SPIN(スロットゲームのようなもの)で使ったり、要するに商品やサービスの代価の弁済に使用されます(③権利行使)。

「ルビー」はまさに「前払式支払手段」そのものというわけです。

それでは、この「ルビー」との交換により取得することのできる「宝箱の鍵」はどうでしょう?

「宝箱の鍵」は「ルビー」という対価を得て発行され(②対価発行)、これはLINEに記録されています(①価値保存)。

問題は、「宝箱の鍵」が代価の弁済等に使用(③権利行使)されるものといえるかどうかということです。

これについては、「宝箱の鍵」の使用方法やその効果などが明らかにならないと確たることはいえないのですが、2つの考え方があり得ます。

1つは、ユーザは「宝箱」を入手した時点で「宝箱の中身」も事実上取得しているのであって、「宝箱の鍵」はユーザの持っている「宝箱」を開ける機能を持ったアイテムにすぎないという考え方。つまり、ユーザは「宝箱の鍵」を使用するのと引換えに「宝箱の中身」を新たに取得するわけではないという考え方です。

この考え方によれば、「宝箱の鍵」は「宝箱の中身」の代価の弁済に使用されているわけではないため(③権利行使の要件を満たさない)、「前払式支払手段」にあたらないということになります。

もう1つは、ユーザは「宝箱の鍵」を使用することによって「宝箱の中身」を取得しているという考え方です。

この考え方によれば、「宝箱の鍵」は、「宝箱の中身」の代価の弁済に使用されるものといえるため(③権利行使の要件を満たす)、「前払式支払手段」にあたることとなります。

なお、「宝物の鍵」は、「宝箱」「宝箱の中身」云々の問題とは別に、使用数に応じてゲームを先に進めたり、使えるキャラクターを増やしたりすることなどにも使用できたとの報道もあります。

この報道を前提とすれば、「宝物の鍵」は、「ゲームを先に進める」「使えるキャラクターを増やす」といったサービスの代価の弁済に使用されるものとして、「前払式支払手段」にあたると判断される可能性が高いといえます。

いずれにせよ、「宝箱の鍵」の使用方法やその効果などを明らかにする必要があり、現在LINEと関東財務局もこの点を含めて協議しているものと思われます。

◆まとめ

決済サービスは日々新たなものが生まれ、これを法律が後追いすることとならざるを得ないため、事業者が日々難しい判断を求められています。

決済サービスを取り扱う事業者は、本件を他山の石としてより慎重な運用を心がけていただきたいと思います。

課金兵になることをかたくなに拒み、あくまでも無課金でソシャゲをたしなむことをモットーとする、堅実にして貧乏性な筆者からは以上です。

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