株式会社は、株主名簿を作成し、これを本店に備え置かなければならないこととされています(会社法121条、125条1項)。
しかし、ベンチャー企業・中小企業などにおいては、株主名簿が適切に作成・管理されていないことがあります。
株主名簿の作成・管理は地味なトピックではありますが、基本的かつ重要なことなので、解説したいと思います。
◆株主名簿とは
冒頭にも述べたとおり、株式会社は、株主名簿を作成し、これを本店に備え置かなければなりません(会社法121条、125条1項)。
この株主名簿には、
①株主の氏名および住所
②各株主の有する株式の数(種類株式発行会社の場合は株式の種類および種類ごとの数)
③株式を取得した日
④株券発行会社である場合には各株主の有する株券の番号
を記載・記録することが必要です(会社法121条)。
株主名簿の作成・備置きを怠ると、100万円以下の過料の制裁となるので(会社法976条7号8号)、注意してください。
◆株主名簿の作成・備置きがないと…
株主名簿がない場合、過料の問題だけでなく、会社の組織運営に支障をきたします。
例えば、通知・催告に関する免責の問題があります。
会社が株主に対してする通知・催告は、株主名簿に記載・記録された株主の住所(または株主が別に通知した場所・連絡先)に宛てて発すれば、たとい到達しなくても、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(会社法126条1項2項)。
会社の組織運営において、株主に通知・催告をしなければならない場面は多いため、このような通知・催告に関する免責は、簡易・迅速かつ画一的な処理のために非常に重要です。
ところが、株主名簿に不備がある場合には、このような通知・催告に関する免責を受ける前提を欠くため、株主に対して現実に通知・催告を到達させなければなりません(民法97条1項)。
実際に私が関与した案件において、会社から株主に対して通知を行う必要が生じた際、株主名簿に不備があったため、その株主の住所を特定し、通知を到達させるのに手間のかかったことがあります。
ちなみに、会社が株主に通知・催告をしなければならない場面は、ザッと挙げるだけでも以下のとおりです。
- 株式会社が株式買取請求権の発生原因となる行為をしようとする場合の通知(116条3項)
- 株式を新株予約権買取請求権の発生原因となる定款変更をしようとする場合の通知(118条3項)
- 譲渡制限株式を買い取る場合の通知(141条1項)
- ミニ公開買付けにより株式を取得する場合の通知(158条1項)
- 特定の株主から自己株式を取得する場合の通知(160条2項)
- 取得条項付株式の取得日を定めた場合の通知(168条2項)
- 取得条項付株式の一部を取得する場合の通知(169条3項)
- 取得条項付株式の取得事由が生じた場合の通知(170条3項)
- 特別支配株主の株式等買取請求を承認した場合の通知(179条の4第1項)
- 株式の併合をする場合の通知(181条1項)
- 株式無償割当てを行う場合の通知(187条2項)
- 単元株式数を変更した場合の通知(195条2項)
- 所在不明株主等の株式の競売・売却をする場合の異議の催告(198条1項)
- (公開会社が)募集株式を発行する場合の募集事項の通知(201条3項)
- 募集株式の発行にあたり株主割当てをする場合の通知(202条4項)
- (株券発行会社が)株券発行の定款規定を廃止する場合の通知(218条1項3項)
- (株券発行会社が)株式単位の変更等にあたり株券の提出を促す場合の通知(219条1項)
- (株券発行会社が)株券喪失登録をした場合の通知(224条1項)
- (公開会社が)募集新株予約権を発行する場合の募集事項の通知(240条2項)
- 募集新株予約権の発行にあたり株主割当てをする場合の通知(241条4項)
- 新株予約権無償割当てをする場合の通知(279条2項)
- 株主総会の招集の通知(299条1項)
- 定款規定に基づき役員等の責任を免除する旨の取締役の同意等がなされた場合の通知(426条3項4項)
- 事業譲渡等における株式会社による通知(469条3項)
- 吸収合併等における消滅株式会社等による通知(785条3項)
- 吸収合併等における存続株式会社等による通知(797条3項)
- 新設合併等における消滅株式会社等による通知(806条3項)
- 責任追及等の訴え提起がなされた場合等における通知(849条5項)
◆まとめ
株式譲渡、増資や相続などにより第三者が株主になる場合や、株主への通知・催告を要する手続を取ろうとする場合などには、株主の確定が重要な問題となります。
株主の確定にあたって無用なトラブルを避けるためにも、株主名簿の作成・管理を徹底しましょう。
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