少数株主排除の妙薬?特別支配株主の株式等売渡請求

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明けましておめでとうございます。

本年も様々な法律問題を解説していきますので、よろしくお願い申し上げます。

さて、年明け1回目の記事として、昨年末にとある会社の少数株主を排除するため、特別支配株主の株式等買取請求を手がけましたので、これについて解説します。

◆少数株主を排除するメリット

会社においては、中長期的な企業価値・株主価値を向上させるため、積極的な事業改革を行うべき局面があります。

しかし、このような改革により短期的な収益や株価が悪化するおそれがある場合には、取締役としては、少数株主からの経営責任の追及リスク等を恐れて、改革を躊躇せざるを得ません。

その少数株主がかつての共同創業者の1人であり、株式を保有したまま競争関係にある事業を行っている場合などはさらにやっかいです(「共同創業者間で仲違いをし…」というのは、ベンチャー企業によくある話ですね)。

このような事態の打開策の1つとして、キャッシュ・アウト(金銭を支払って少数株主を排除すること)が考えられます。

◆特別支配株主の株式等売渡請求

キャッシュ・アウトには様々な手法が考えられますが(例:全部取得条項付種類株式の取得を活用する手法、株式併合を活用する手法)、比較的簡易・迅速な手法として、特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条以下)があります。

これは、対象会社の総株主の議決権の90%以上を持つ株主(特別支配株主)がその他の少数株主(売渡株主)の持っている株式の全部を売り渡すよう請求することができる制度です。

この請求により、特別支配株主と売渡株主との間で売買契約が成立する結果、対象会社から少数株主が排除されることになります。

◆20日余りで手続が完了

特別支配株主の株式等買取請求の手続は、次のとおりです。

⑴ 特別支配株主から対象会社への通知

特別支配株主は、株式等売渡請求をすること、対価の額・算定方法や取得日などを決めた上で、対象会社に対してその通知をします(会社法179条の3第1項)。

⑵ 対象会社における承認

特別支配株主から通知を受けた対象会社は、取締役会で株式等売渡請求を承認するかどうかを判断します(会社法179条3第3項)。

売買契約は、売渡株主と特別支配株主との間で成立するものであって、本来であれば対象会社は何の関係もありません。しかし、対象会社がその是非の判断をする仕組みとなっていることがポイントです。

⑶ 対象会社から特別支配株主への通知

対象会社は、株式等売渡請求を承認した場合、特別支配株主にその旨を通知します(会社法179条の3第4項)。

⑷ 対象会社から売渡株主への通知・公告

対象会社は、取得日の20日前までに売渡株主に、特別支配株主の売渡請求を承認したことなどを通知・公告します(会社法179条の4)。

特別支配株主による売渡請求ですが、売渡株主にその旨を通知・公告するのは対象会社であることに注意してください。

⑸ 事前開示書類の備置

対象会社は、売渡株主への通知・公告の日から取得日後6か月(非公開会社の場合は1年)を経過する日までの間、一定の事項を記載・記録した書面をその本店に備え置かなければなりません(会社法179条の5第1項)。

⑹ 売渡株式等の取得

取得日において、売渡株主から特別支配株主へ株式が移転します(会社法179条の9第1項)。対価の支払の有無にかかわらず、売渡株式の移転の効果が生じることがポイントです。

⑺ 事後開示書類の備置

対象会社は、取得日後遅滞なく取得日から6か月間(非公開会社の場合は1年間)、一定の事項を記載・記録した書面をその本店に備え置かなければなりません(会社法179条の10第1項・第2項)。

⑻ 対価の支払い

特別支配株主は、売渡株主の口座や住所などを知らないことが通常であるため、対価の支払いについては、特別支配株主が対象会社に委託をすることになるでしょう。

特別支配株主の株式等売渡請求のスケジュール

特別支配株主の株式等売渡請求のスケジュール

結局、スケジュールに関する会社法上の制限は、「⑷の通知・公告から⑹の取得までに20日以上の期間を設けること」だけであるため、事実上の準備を除けば20日余りで手続が完了することになります。

◆閉鎖型タイプの会社は慎重に

特別支配株主の株式買取請求は、少数株主排除の手段として有効ではありますが、同時に少数株主の保護にも配慮しなければなりません。

特に閉鎖型タイプの会社の内紛に起因する少数株主の排除については、排除の目的そのものが不当であるとして差止事由や無効原因となりうる旨の指摘もあるため、注意が必要です。

◆まとめ

キャッシュ・アウトには様々な手法がありますが、総株主の議決権の90%以上を保有しているのであれば、簡易・迅速性の観点から、特別支配株主の株式等売渡請求を利用することになると思われます。

この場合、手続上の瑕疵や少数株主排除の目的そのものが差止事由や無効原因となる可能性があることに注意が必要です。

特別支配株主の株式等売渡請求にあたっては、弁護士等の専門家の意見を踏まえた上で、慎重に手続を進めましょう。

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