請負代金債権の発生と納品をめぐる問題

標準

◆請負代金債権の発生時期

ソフトウェアの開発、デザインやコンテンツの制作などの多くは、請負契約(民法632条)にあたります。

この請負代金債権の回収にあたり、発注者と受注者の間でおもしろいやり取りがなされたことがあります。

その事案では、受注者がコンテンツの制作を完了し、あとは納品や検品を待つばかりの状況であり、請負代金の支払時期が納品の翌月末に設定されていました。ところが、発注者は請負代金の支払いに難色を示し、「納品や検品が未了であるため、請負代金債権は発生していない」などと主張し始めたのです。

さて、受注者はどのように反論すればよいでしょうか。請負代金債権の発生時期に関する問題です。

結論としては、請負代金債権は請負契約の成立と同時に発生しているということになります(大判昭和5年10月28日9巻12号1055頁参照)。請負契約は、受注者がある仕事を完成することを約束し、発注者がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約束することによって成立するものであることからいって、当然の帰結です。

納品や検品の未了は、請負代金の支払時期に関係することはあっても、請負代金債権が発生しているか否かには関係ありません。

◆目的物の受領拒否

発注者が請負代金債権の発生そのものを否定するような場合、受注者が納品をしようとしても、目的物の受領を拒まれることが予想されます。

目的物の受領を拒まれた場合であっても、受注者が目的物の引渡義務を負うことには変わりありませんが、このような場合、受注者は、納品の準備ができていることを通知してその受領の催告をすれば、自己の責任を免れることができます(民法492条、493条)。

なお、請負契約における目的物の受領拒否については、独占禁止法の優越的地位の濫用(同法2条9項5号ハ)や下請法の受領拒否(同法4条1項1号)との関係も問題となりえます。

◆不安の抗弁

仮に発注者が目的物の受領を拒絶しない場合であっても、請負代金の支払いに難色を示す発注者に納品をすることは、将来の支払いに対する不安を伴います。

このような場合、請負代金の支払いより先に納品を行うべきこととされているものの、個別の事情(例えば、倒産のおそれがあるとき)により、納品を拒める場合もあります(不安の抗弁権。東京地判平成2年12月20日判タ757号202頁参照)。

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