従業員によるソーシャルメディアの利用

標準

◆ソーシャルメディアの普及に伴うトラブル

ブログ、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアの普及に伴い、企業の従業員や関係者による不適切な内容の投稿がなされ、炎上や情報漏洩などの問題が生じるケースが見受けられます。

2014年11月には、アニメ制作会社から作画業務などを受注しているアニメーターがツイッターで作品に関わる不適切な発言や画像を投稿したことが問題となりました。

◆企業の負うリスク

従業員が個人として情報を発信した場合であっても、その情報はネット上で瞬時に広範囲に拡散されるため、ときとして企業に次のようなリスクをもたらします。

①営業秘密や個人情報などの漏洩による法務リスクが生じる
②取引先を批判する内容の投稿・発信により取引先との関係が悪化する
③会社や同僚を批判する内容の投稿・発信をしたことにより職場環境が悪化する
④企業ブランドやレピュテーションに傷がつく

◆対応策の概要

企業としては、このようなリスクを最小化するため、事前・事後の対策を講じる必要があります。

しかし、いったんネット上に流出した情報の拡散を止めることは事実上不可能であるため、特に事前の対策が重要です。

もっとも、従業員が個人としてソーシャルメディアを利用することを一律に禁止したり、アカウントを届出制にしたりすることはできません。従業員の表現の自由やプライバシーにも配慮する必要があるからです。

結局、事前の対策としては、個々の従業員の意識に訴える方法が最も有効であり、それ以外に効果的な方法がないのが実情です。

◆事前の対策

事前の対策としては、次の⑴から⑹までのようなものが考えられますが、どのような対策を立てるにしても、企業と従業員が、①インターネット上での情報の発信が瞬時かつ広範囲に拡散される性質を持つこと、②会社が被るダメージと同等あるいはそれ以上のダメージを従業員個人が被る可能性があることを理解し、ソーシャルメディアへの向き合い方を共有することが重要です。

⑴ ソーシャルメディア利用ガイドラインの策定

ガイドラインの具体的な条項は企業により様々ですが、①情報発信の基本姿勢、②業務関連情報(個人情報や営業秘密など)の発信の禁止、③相手や第三者を尊重した適切な表現を心がけることなどを定めることになります。

⑵ 就業規則

就業規則は、従業員の不適切な情報発信により問題が生じた場合に、従業員に対して懲戒を行う根拠となるものです。

秘密保持義務や対面汚損条項(「従業員の故意・重過失による不適切な行為により会社の対面・信用を傷つけたとき」に懲戒できる旨の定め)の内容やその運用を適正なものとすることが重要です。

⑶ 誓約書の提出

①ガイドラインや就業規則を遵守すること、②研修への参加、③モニタリングへの同意、④違反の場合の法的義務などを内容とする誓約書を取り交わすことが考えられます。

誓約書の提出により認められるモニタリングや従業員の負う法的義務の内容には限界があるものの、個々の従業員の意識に訴えるという観点からは有効な対策といえます。

⑷ 研修の実施と改善

ガイドラインや就業規則のようなルールを単に定めただけでは、その内容や理念を従業員に浸透させることはできません。

ガイドラインの内容や日々発生する具体的な事案を踏まえた研修の立案(Plan)、研修の実施(Do)、研修を受けた従業員からのフィードバック(Check)、研修内容の改善(Act)を繰り返すことにより(PDCAサイクル)、企業と従業員がソーシャルメディアへの向き合い方を共有していくことが重要です。

⑸ 問題発生時に備えた体制作り

ソーシャルメディアに関する問題に限らず、企業が何らかの不祥事を起こしたり、炎上に巻き込まれたりした場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。

そこで、問題発生時に備え、①担当者や担当部署の設置、②情報の記録・伝達方法、③調査の手順、④企業としての見解の発信方法・時期などを内容とするマニュアルを策定し、これを研修内容に盛り込むことなどにより、企業と従業員との間で共有することが重要です。

◆事後の対策

事後の対策としては、事前に策定したマニュアルに従って、①原因究明、②企業としての見解の発信(謝罪や調査の進捗状況など)、③再発防止策の策定、④苦情・質問窓口の設置などをできる限り迅速に行うことが重要です。

その後、不適切な情報を発信した従業員への法的対応も検討することになりますが、特に懲戒処分については、労働法条の制約(労働契約法15条、同16条など)に注意が必要です。

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